Re.My_little_sister (1〜6話)

1)
「おにーちゃん、ほら、早く早く、がっこ、おくれちゃうよー」
入学式から数日後。朝から、すげぇ元気なのは、僕の妹の「麻衣」だ。ちなみに、僕は「鈴木健太」っていう名前。僕がまだ3歳のころ、麻衣が2歳のとき、親父と再婚した母親の連れ子だった。それからずっと、兄妹として育てられた。でも、麻衣は僕と血が繋がっていないことを、知らない。
「いま行くって」
「もう、おにーちゃん遅刻しちゃうよー」
だったら、先に行けばいいのに。でも、そう言っても、麻衣はきっと1人で行ったりしない。いままでずっと、幼稚園も小学校も中学校も2人で一緒に行っていたから。僕は高2、麻衣は高1、もちろん、同じ学校だ。そこそこの進学校で、麻衣は楽勝、僕の方がヒヤヒヤだった。麻衣は中学校で、もっと上のランクを目指せといわれてもウンといわなかった。「お兄ちゃんと一緒がいい・・・」。そう言われて、僕は正直、うれしかった。麻衣には言えないけど。絶対。

2)
「今日から授業だー。高校の授業ってどんなかなー」
「麻衣は頭いいから、大丈夫だよ。ほんと、うらやましいよ。忘れ物はないか」
「また、こうしておにーちゃんと一緒にがっこ行けるの、うれしいね」
こいつ、人の話聞いてねぇ。肩にかかるくらいの栗毛のショートカット。くるりんとした大きな瞳でちょこんと小さな唇に、ぷにぷにっとした頬。童顔丸顔で色白で、決して美人タイプじゃないけど、僕から見ても、結構可愛い方だと思う。ちなみに、背もちっちゃい。まぁ、仔猫みたいな感じってやつだ。
「おにーちゃんも、うれしいでしょ、ね、ね、ね、うれしいよね」
「・・・別に」
ほんとはうれしい。けど、そんなこと言える訳ねぇ。
「うぬぬー。ほんとはうれしいくせにぃ」
「おいっ、やめろって。ほかの生徒が見てるだろ」
僕の腕にしがみついてきた。ひじに柔らかい感触が・・・。いつの間にか、成長してんのな。

3)
「ね、ね、おにーちゃん、麻衣、サッカー部のマネジャーになろうかなって、思ってるんだけど、どうかな? ね、いいよね、おにーちゃん?」
しがみついたまま、上目遣いに人の顔を覗き込んできた。視線を逸らして前を見る。どうにもこうにも麻衣の、この甘える仕草に弱い。
「ダメ、絶対に、ダメ」
「えぇ〜、どうしてどうして〜」
「どうしても、だーめ!」
なぜなら、僕がサッカー部の部員だからだ。弱小だけど、一応、2年でレギュラーしてる。ポジションはDF。麻衣が同じ部活なんてことになったら、チームの仲間に何を言われるか・・・。
こっ恥ずかしいだろ、ふつー。高校生にもなって、兄にべったりの妹がいるなんて。
「ケチ! おにちーちゃんのケチケチケチぃーだっ」
捨てゼリフを残して、麻衣は校門に向かって走り去っていった。ほんと、これから毎日、この調子かよ。先が思いやられる・・・。反面、ちょっとうれしかったりも、する。

4)
「たっだいまー!」
どうしてコイツ、いつもこんなに元気なんだ。と思ったら、テレビの前で寝っころがっている僕のところに、制服姿のまま、まっすぐ飛んできた。目の前に、ペタンと座り込んだ。テレビが見えねぇ。ニコニコと僕の顔を覗きこんでいる。
「おかえり。麻衣、今日は遅かったじゃん」
麻衣の膝小僧と、真新しい紺のブレザーとエンジの紐リボン、こげ茶チェックのプリーツスカートが見えた。
「今日ね、放課後、部活のオリエンテーリングがあったんだ」
「えっ! 今日だったっけ」
やべぇ、忘れてた。さぼっちまった。明日、監督に怒られる・・・。
「でね、部活、決めてきたんだよーん」
「ま、まさか・・・」
「野球部のマネジャーにしたんだ。残念だった? おにーちゃん、麻衣がサッカー部じゃなくて、がっかりした?」

5)
「・・・いんや、ほっとした。心からほっとしたよ」
「うぬぬー、おにーちゃんの意地悪ぅ」
「でもなんで野球部なんだ? 麻衣、野球のルールとか知らないだろ」
「知ってるよーっ」
顔を真っ赤にして、ムキになる表情に、思わずドキッとした。
「ボールを打ったら左に走るんだぞ」
「だーかーらー、そのぐらい知ってるって言ってるじゃないのー、うんもー」
コ、コイツ…。まぁ、いい。
「で、なんで野球部にしたんだ?」
「だって・・・」
「なんだよ?」
「サッカー部の隣で練習するでしょ、野球部って。だから、ほら、おにーちゃんが練習してるとこ、見られるかなぁーって」
おいおい、野球部もえらいお荷物しょいこんだな。
麻衣の言葉は、本当は、嬉しかった。
「明日から、頑張ろーっと」
がばっと、麻衣が立ち上がった。
「あ・・・」
真上に、制服のスカートの中が・・・。僕の視線に気付いた麻衣の顔が、再び真っ赤になった。
「おにーちゃんのえっち! へんたぁーいっ!」
わき腹に1発、蹴りをいれてドタバタと2階に上がっていった。痛ぇ。思いっきり、見ちまった。ラッキー。って、バカ。あいつは、妹だぞ。

6)
麻衣が僕と同じ高校に入学して2週間が過ぎた。そんなある日―。
「健太、廊下にお客さん、きてるぜ」
昼休みにだべってたら、同じクラスの奴に呼ばれた。また、麻衣かな!? 今日は弁当忘れてないぞ。と思った。しかし・・・。
「ふーん、お前が麻衣の兄貴か」
コイツ、たしか野球部の・・・。いきなり、気安く麻衣を呼び捨てにされて、ムカつく。
「なんか用かよ」
クラスは違うが、同じ2年でエースの「久保信一」。弱小だったうちの野球部がコイツが入った年の夏に県大会でいきなりベスト16。なんてことになったから、いきなり学校中の注目を浴びた。野球の実力はあるんだろうけど、いつも女の子をつれて、ちゃらちゃらしてて。そんな奴が僕になんの用だ。
「あぁ、いや別に。用はないんだけどよ、麻衣の兄貴がどんな奴か、ちょっと見ておこうと思ってな。それだけ。じゃぁな」
ニヤリと笑って振り返った。
「おいっ、ちょっと待てよっ」
僕の声を無視して、スタスタと廊下を歩いていく。
いったい、何なんだ。
(つづく)

yuki
2005年08月25日(木) 21時04分01秒 公開
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