Re.My_little_sister (25〜27話)

25)
「おい、信一っ。あれ、あれ見ろよ」
部活が終わり、帰り際のことだった。
お約束の体育館裏。何人かの女子生徒がたむろしている。
「あいつらは、たしか…」
たむろというより、誰かを取り囲んでいるようだ。
3年の麗泉院静香先輩。祖父が大物政治家、父親が大会社の社長という家の一人娘で容姿端麗。野球部のマネジャーもしている。周囲にいるのは、その取り巻きの女子生徒たちだ。
「あいつら、きっとまた誰かを苛めてるんだ」
「おっ、おいちょっと待てよ」
一緒にいたサッカー部の友人がズカズカと連中の方に近付いていく。
「ちょっと待てよ、あいつらに目を付けられたらどうすんだよ」
親の権力をかさにきて、学校でもやりたい放題。連中の苛めのターゲットにされて、転校していった生徒は男女問わず、何人もいるって話だ。
「関係ねぇーよ。黙って見過ごすなんてできねぇーだろ」
正直、そんなやつらと関わりたくない。せっかく、麻衣と同じ学校になれたんだ。巻き込まれたくない。
「待てってば」
「おい、おまえら何をやってんだよっ!」
静香さんたちが振り返った。

26)
「なーに、あなたたち?」
口を開いたのは、その静香さんだ。
「何をやって!?」
「ひどい…」
思わず、僕の口から漏れた。
連中の足元で、正座させられている女子生徒が1人。頭から紙袋を被せられていて顔は分からない。制服のブレザーには、あちこちに足跡がついていた。
「見て分からない? 言いつけを守れない悪い子に、お仕置きしてるところよ」
集団で取り囲んで足蹴にしていたらしい。
「言いつけ?」
「そ。職員室から期末試験の問題盗んでこいっていったのに、できなかったの。だから、お仕置き」
「そんなこと、できる訳ないだろ」
取り巻きの一人が、手にこげ茶チェックのスカートを持っているのに気付いた。よく見れば、正座している女子生徒はスカートを履いていない。太股が付け根まで露になっていて、ちらりと白い下着が見える。
「とにかく、今すぐにこんなひどいことはやめろ」
「あーら、あなたたち、私に逆らうつもりなのかしらぁ」
「集団で1人で苛めるなんて、最低だっ」
「ふーん、言うじゃない…」
静香さんが、威厳に満ちた冷たい視線で僕らを睨みつける。
「たしか、サッカー部の1年よね。私に逆らうのならサッカー部活動できなくしちゃうわよー。そのぐらいの覚悟はできてるのよね」
「くっ…。卑怯だぞ」
「なんとでも言いなさい。力あるものがすべてなのよ」
「おい、なぁ、行こうぜ」

27)
「健太っ! おまえはこんな酷いこと、見て見ぬ振りできんのかよっ」
「そうじゃないけど…。でも、サッカー部が活動停止になったら困るだろ」
「健太っ!?」
僕は、友人の耳元で囁いた。
「大会前の大事な時期だ。とにかく、ここは一度離れよう。そして、すぐに先生を呼びに行こう。そうすれば、あの生徒は助けられる」
少し逡巡して答えが返ってきた。
「…分かった」
小走りで立ち去る僕らの背後から、「健太くんって言うんだっけ。私は物分りのいい子って好きよ」。からかう静香さんの言葉が飛んできた。
「くそっ」
悔しい。すぐに先生を呼んでこよう。そして、早くあの可哀相な女子生徒を助けなきゃ。
「だいたいあんた、ちょっと可愛いからって生意気なんだよ」
「ちゃんと反省してんのかー、どうなんだよー」
「ほら、もっと深く頭を下げて謝りなさいよー」
苛めが再開されたようで、取り巻き連中の罵声が聞こえる。
そのとき。
「おまえら、やめろっ」
再び止めに入る、別の男の声が聞こえた。
「信一くん!?」
答えたのは、静香さん。助けに入ったのは、どうやら野球部のアイツらしい。
「静香先輩、何をしてるんですか」
「えっ、これは、違うの、違うの、信一くん。この子たちが勝手に」
振り返ると、どういう訳か、静香さんの方がオロオロしている。
「先輩、またお父上に言いつけられたいんですか」
「ご、ごめんなさい」
あいつも、意外といいところあるじゃないか。
「もう大丈夫だから、安心して」
静香さんとあいつがどういう関係かは分からないが、ともかく、これであの女子生徒は助かったはずだ。
よかった。
(つづく)


yuki
2005年08月30日(火) 19時47分26秒 公開
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