Re.My_little_sister (38〜39話)

38)
それから、麻衣とは気まずくなって、まともに話していない。
最悪な状態のまま突入した夏休みも、もう後半戦。もちろん、毎夏恒例だった、麻衣との海水浴も、行っていない。行ける筈がない。
なにしろ麻衣は、視線も合わせてくれないのだから。
話しかけても無視。親の前では「うん」とか「んん」とか、短く答えるけれど、それ以外では一切、答えてくれない。
麻衣の部屋にも鍵が取り付けられた。
麻衣が何を言ったのかは分からないが、母親からは「麻衣も年頃なんだから、あなたも気を遣いなさい」と言われた。
どうしてこんなことになってしまったのか。
それから、僕の生活は真っ暗になってしまった。混乱した日々。何も考えられなかった。何もかもが信じられなかった。心の中に大きな穴が開いて、何も手につかなかった。ずっと頭が痛い。胃が痛い。
サッカー部もレギュラーから外れた。
「どうしてだよ…」
その言葉ばかりが口をつく。
そればかりか、もう、麻衣はあいつと・・・。麻衣の唇が、白い肌が・・・。頭の中に浮かぶのはそんなことばかり。考えたくないことばかりが、浮かんだ。
「どうしてだよ…」。その言葉だけが、グルグルと頭の中を回っていた。
麻衣は自分からあいつと…、 もう、麻衣はあいつと…。
あいつと…。
誤解を解くことができないばかりか、そんなことばかり考えている。
僕は最低だ。
「それじゃ、いってくるね…」
「気をつけてね。忘れ物はない?」
「うん…。大丈夫だよ」
合宿に行く麻衣を見送る母親との会話が玄関から聞こえた。居間でぼぅーっと、テレビを見ながら、その声を聞いた。
「それじゃ、いってきます・・・」
「いってらっしゃい」
バタンとドアの閉まる音が聞こえた。
「ほら、健太。あんたも部活あるんでしょ。さっさと学校行きなさい」

39)
部活帰り。
ゲーセンに寄ろうと仲間に声を掛けられたが、とてもそんな気にはなれず、1人で家路についた。
麻衣…。
麻衣…。
麻衣…。
考えるのは、麻衣のことばかり。
麻衣…。
遠くで、野球部が練習している。金属バットの鋭い音が、遠く、耳鳴りのように聞こえる。
野球部が練習!?
野球部は合宿じゃないのか!?
麻衣は野球部の合宿に行ったんじゃないのか!?
なんで、野球部がグラウンドで練習しているんだ?
グラウンド脇に行って、たまたま通り掛った1年の部員に尋ねた。なるべく平静を装って。
「野球部、今日から合宿じゃなかったっけ」
「そんな予定ないですよ、なぁ?」
「だよな。県大会終わったばかりだし、次は秋季大会後の冬合宿だよな?」
「おかしいなぁ、久保に合宿だって聞いたんだけど…」
「久保先輩に?」
「あぁ、久保から聞いたんだ」
「じゃ、あれのことですか」
最初に答えた方の1年生が、ニヤリと笑った。
「あれ?」
「先輩も誘われたんですか。羨ましいっす。久保先輩の主催するあれ、参加できるなんて」
「そっ、そうなんだよ。でも、詳しいこと何も聞いてなくてさ。それで、どんなのだろうと思って」
あれって、何のことだ?
「乱交パーティーらしいですよ。僕らもよく知らないけど」
ら、乱交っ!?
「どこかの別荘を借り切って、参加者がそれぞれ自分の彼女を連れていって、それで2泊3日とか泊り込みでひたすら犯りまくるって話ですよ」
な、なんだって…!?
麻衣が、麻衣が、麻衣が…。
そんなはず、ない…。
「先輩、パーティーから帰ってきたら、どんなだったか話聞かせてください」
「あっ、あぁ…、分かった…」

結局、麻衣がどこに行ったのか手がかりさえつかめず、携帯電話もつながらず。何も分からなかった。
麻衣は2日後の深夜、帰ってきた。真っ直ぐ部屋に入ると、そのまま寝込んでしまったよう。いくらノックをしても返事はなかった。
麻衣は翌朝、ひどく疲れた表情で朝食を取り、「具合が悪い」と言って部屋に篭ってしまった。いくら声をかけても返事はなかった。
(つづく)


yuki
2005年09月06日(火) 20時55分03秒 公開
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