Re.My_little_sister (40〜42話)

40)
新学期まであと数日。
麻衣とは気まずいままで、家に居づらい。
麻衣は、家にいるときはほとんど部屋に篭りきり。あからさまに僕を避けていて、話し掛けるいとまもない。僕はどうして誤解を解けばいいのか分からず、いたたまれず、家を出た。
しかし、行く当てもない。本屋で立ち読みをして帰ってきたら、玄関に見知らぬ男の靴が揃えて置いてあった。
麻衣の小さなミュールの横に、僕のものではないナイキのスニーカーが並んでいる。
「そうか、君は野球部でエースをしているのか」と父親の声。
「すごいんだよぉー、来年こそ甲子園って期待されてるの」と明るい麻衣の声。
「どんどん食べて栄養つけてね」と母親の声。
楽しそうな笑い声が台所から聞こえる。
「それにしてねぇ、麻衣がこんな格好いい男の子を家に連れてくるなんて…」と感慨深そうな母親の声。
「ごっ、ごほん」と咳払いする父親の声。
僕の家に、誰がきているのかすぐに分かった。
「お転婆でおっちょこちょいな娘ですけど、末永く仲良くしてやってくださいね」
「やっだー! もう、お母さんたらっ」
はしゃぐ麻衣の声に、笑い声か被さる。
「ただいま…」
「あら、健太、おかえり」
台所に顔を出した僕に、あいつは…。
「あ、お兄さん。こんにちは、お邪魔してます」
満面の笑顔で振り返って、普段とは打って変わって爽やかな笑顔で、そう言い放った。
隣の席では、麻衣が振り返ろうともしない。髪を伸ばしているのか、サラサラの栗毛が肩より下まで掛かっている。
「久保、おまえ、なんで…」
睨みつけた僕に、あいつは平然としている。
「おまえ、麻衣をどうする気だっ、ひとんちまで来てなにやってんだよっ」
思わず声を荒げた僕を、父親が「健太、失礼なことを言うもんじゃないっ!」と一喝。母親が「ごめんなさいね、信一さん、気にしないでいいのよ」と慮った。
「先輩、麻衣の部屋に行こ」
麻衣は僕から顔を背けたまま、久保の手を取って2階に上がっていく。
「お、おい、ちょっと待て。まだ話が」
「健太、いい加減にしないかっ!」
「麻衣、お母さんたちちょっと出掛けてくるから。信一さん、ゆっくりしていってね」
ちくしょう、あいつ…。どうして僕の家にまで…。

41)
あいつへの怒りと、麻衣に理解されないやるせなさと。
部屋に戻ってベッドで呆然と寝転んでいて、しばらくして、奇妙な音が聞こえるのに気付いた。
ギッシ、ギッシ、ギッシ、ギッシ…。
とりたてて気にすることもなく、でも、もう30分近く延々と何かが軋む音が聞こえ続けていると、さすがに「なんだろう」と思う。
ギシギシギシギシ…。
だんだん、テンポが速くなっているような!?
なんだろう、この音?
ギシギシギシギシ…。
壁の向こうから聞こえる?
ギッギッギッギッ…。
「はっ!」
慌てて壁に耳を押し当てた。
ギッギッギッギッ…。
同じリズムでかすかに聞こえる。
「あん、あん、あっ、あん…」
ずっと聞こえ続けていたのは、ベッドが軋む音。
「あっ、あっ、あっ、また、またっ、はぁん」
壁一枚隔てた向こうで。
「なんだよ、また自分だけイクのか。今日はこれで何回目だよ」
ギッギッギッギッ…。
「ごめっ、あっ、ごめんなさいっ、あん、だめ、また、またっ、だめになっちゃうぅぅぅ」
1メートルも離れていないところで。
「ほら、何回目だって聞いてんだよ」
ギッギッギッギッ…。
「さ、3回、3回ですぅ」
麻衣があいつに延々と。
「おらおらおら、飛んじゃえ、いっちまえ」
ギッギッギッギッ…。
「だめ、だめ、だめっ、んんっ、んんっ」
責められていた!
「ちゃんとイクときの顔、俺に見せろっ」
ギギギギギギギギッ!
「んっーんっーんんっーんぐぅっーーーんくっ、んくっ、んぐっーーーーーー」
軋む音が止み、今は「はぁ、はぁ、はぁ」と荒い呼吸音だけが聞こえる。
「どうだ、気持ち良かっただろ」
「はぁ、はぁ、はい…、すごい…、はぁ、はぁ、先輩、とても気持ちいいです…」
「でも、まだこれからだぜ。今日は麻衣のベッドでとことんよがり狂わせてやる。毎晩、寝るたびに俺のことを思い出して濡れちまうぐらいにな。いいな、麻衣」
なっ、あいつ、なんてことを! 麻衣に、なんてことを! そっ、そんなこと許せない!
しかし、聞こえた麻衣の返答が、僕を打ちのめした。
「はい、先輩…」

42)
「それじゃ、いってきます」
2学期が始まって間もなく、連休にまた「野球部の合宿」だと偽って、麻衣は出掛けて行った。
麻衣は絶対、あいつに騙されているんだ。久保に騙されている。なんとかして、その証拠を。
こっそり麻衣を尾行することにした。麻衣を連れ戻し、助けなければ。
早く、一刻も早く、麻衣を助けないと。
待ち合わせ場所は駅前かと思ったが、改札には入らず、いかがわしい繁華街の裏路地へ。
1台のマイクロバスの前に、人が集まっていた。
あいつがいる。麻衣に手を振っている。麻衣も振り返す。
あれは、麗泉院先輩!? 野球部の3年生も何人かいるし、うちの学校の制服を着た女子生徒以外にも、他校の制服姿の女子生徒もいる。
それに…。
まるでヤクザみたいなガラの悪い男も複数いて、派手な服装をした女子大生っぽい女の人の腰に腕を回したりもしている。
一目見ていかがわしそうな集団なのに、麻衣はなんのためらいもなく、その輪の中に入って。
そして…。
あいつと手を繋いでマイクロバスに乗り込んでいった。
僕は、タクシーでこっそり尾行した。マイクロバスは高速道路に乗り、高原の別荘地に向かった。

『どこかの別荘を借り切って、参加者がそれぞれ自分の彼女を連れていって、それで2泊3日とか泊り込みでひたすら犯りまくるって話ですよ』

いつか聞いた言葉が、しきりに浮かんでは消える。
宵闇が深まってきた頃、森の中にある1軒の洋館の前でマイクロバスが止まった。
深夜、僕は洋館に忍び込んだ。
(つづく)

yuki
2005年09月12日(月) 20時45分36秒 公開
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